「いらっしゃい。」

KENはつぶやくように、言った。
つぶやくようにしか言えないのは、元気がない証拠か?
いや、ちょうど、痰が絡んだだけだ・・・とKENは自分に言い聞かせた。

店の入り口のスイングドアから入ってきたのは、ちょいポッチャリな男、TAKEである。
彼はあまりオシャレには興味がないのか・・・。なぜか、くるぶし丈のジーパン。そして赤と青のチェックのネルシャツ。その下にはポッコリとふくれたお腹が白いシャツごしに目立っている。背丈はあまりないが、そのお腹のせいか、彼は意外と大きく見える。

TAKEは頬を少しだけ緩ませ、「KENちゃん、バーボンちょうだいよ。」とぬれた縁なしのメガネを外しながら言った。

「はいよ。ロックね。」KENはそう答えながら、すでに片手でロックグラスをつかんでいる。

今日は土曜だというのに店内には客がまだTAKEだけだ。
ザーーという雨の一定の音程が、店内を流れるJack Johnsonの端々に聞こえて耳障りである。