しかし。


「いいも悪いも……俺はそうするしかないと思う」


揺さぶられながらも、俺は半ば無意識でそう口にしていた。


そしてそれは俺の本音だ。


俺が出て行ったあと、賢杜は知らぬ存ぜぬを決め込めばいい。


なかったことにするのだ、何もかも。


あの男には悪いが、先に渡されていた金はあとで返すことも出来るだろう。


封筒にでも入れて、『あの人に渡して下さい』とあのロビーウーマンに言えば、渡してくれそうだし。


「俺がここにいたことなんて、誰もわからないんだし」


正確にはあの男は知ってるわけだが、確証を示すなんて出来ないだろうし、

俺の素性も知らないわけだから、なんとか切り抜けられるだろう。


「だから……出て行くよ」