ばたばたと慌ただしく、賢杜が姿を見せた。


見れば賢杜はきっちりとスーツを身につけており、いつもと同じく職場に向かう雰囲気を醸し出していた。


ただ一点、その表情を除いては。


蒼白なその顔は固く強張り、視線はせわしなく動いていた。


何かしなければならないと焦りながら、自分でもよくわからない何かを探しているかのような、そんな視線。


さすがに放っておくことなんか出来なくて、俺は小さく声をかけた。


「どうしたの? 電話、何かあった?」


恐る恐る問い掛けた言葉は自分でも驚くほどに小さくて、賢杜に聞こえたろうかと不安になる。


それでもどうにか賢杜に届いたようで、ゆっくりとこちらに顔を向けて寄越した。


「……たいしたことじゃない。
ただ、その、もしかしたら……ここに、いられなくなるかもしれない」


ぎゅっと音が聞こえてきそうなほど、賢杜が拳を握りしめたのがわかった。