驚いて賢杜の顔を見る俺に、

「どこにもいかないでくれ……」

という言葉が耳をうつ。


言葉の意味がわからずに困惑していると、

ハッとした顔つきで、賢杜が俺から手を離した。


自虐的に「瑠唯はどこにもいかないよ」と微笑むと、もう一度俺の腕に賢杜の手が伸びた。



「違う……そうじゃないんだ……」


その台詞を空々しく感じるが、俺にはそれを責める資格はない。


「大丈夫だって。賢杜が追い出したくなるまでいるからさ」


やんわりと伸ばされた手を払い、俺は台所へと向かった。


「それよりさ、俺、腹ペコ。
何食べる?」


賢杜を振り返ったときにはもう、いつもの自分の顔を取り戻していた。