「アンタ…」
冷静になるのにはそこまで時間がかからなかった。私はいつも鈍感というか神経図太いというか普段妙にデリケートなわりに度胸はすごいのだ。たぶん街中で引ったくりを見つけたら考えなしに犯人に突っ込んでいくと思う。その後のことを考えずに行動するのだ。その落差が激しいので周りの人は私のコトを二重人格という。察しの通りAB型だ。とりあえず思いのほか早く冷静になった私は男も肩の力が抜けるようなことを言ったようだ。
「さっきから馴れ馴れしいけどアンタ誰なんだ」
男は落下した。地上から1メートルほど高いところに浮いていた彼はギリギリ地上から10センチ位のところで体勢を保った。吉本新喜劇のようないいコケっぷり…ならぬいいオチっぷりだった。
そいつもまさか私からそんな返事が返ってくるとは思っていなかったようだし…。スルするとまた、男は1メートル程度浮上した。そして
「もっと驚けよ」
みたいな顔をして、でもタイミングは悪かったにしろ聞いてもらいたいことを聞いてくれたことへの優越感をふくめた、複雑な表情で説明を始めた。

・男の名前は『ヘル』ということ
・少なくとも人間ではないこと(本人は人間の願いを叶えるキューピットを名乗っていた がキューピットなんて面ではない)
・シロのとこを細部まで気持ち悪いほどに知っていること
・私が考えてることはすべてわかってしまうということ

彼のことについてたった2分ほどの説明で私が理解できたのはこれだけだった。