「怪しい……」

 わたしは呟きながらカシオレを飲みつつも、置いてきぼりが許せなかった。

「はい、切れたよ。有紗。食べよう?」

 けれど、すぐ許した。余りに美味しそうで。

 わたしは、「マスター、頂きます!」と言いながら、まだ熱いピザをフーフーしつつ一口かじり、口を覆いながら、「美味しい……」と一言零した、つもりだったのだけれど、声が大き過ぎたのかな? 陵市、マスター、田口くんと見る度に目が合って、わたしは思わず赤面した。優しい笑みなのだ。逃げるように左をちらりと見遣ったのだけれど、びっくり、白髪の紳士までこちらを見ていたようで、またもや満面の微笑、わたしは、観念して笑い、もう一度「美味しい」と言った。

「ふぁつ、あつ、……うん、美味しいね」
 わたしを眺めていた陵市も、すぐさま口を付け、喜悦に浸っている。このピザは、不思議。乗っているのは、輪切りにされたゆで卵とサラミだけなのに、わたし達は、これまたこんなに美味しいピザを食べた事が無くて、美味しさの秘密は、口当たりの良い、このソースにある筈、とわたしは踏んでいる。トマトベースには違いないのだけれど、ソースが甘いのだ。

「ほんとに好きなんだね」わたし達がペロリと平らげたところで、マスターがグラスを拭きながら一言、「美味しいです」わたしはカシオレを飲み干し、「同じのひとつ!」と言った。

「有紗ちゃん、本当に大丈夫? まだ、お酒飲める? 無理はしちゃ駄目だよ、お酒は飲んでも飲まれるな、って言うからね」
「はい。大丈夫です! 楽しくて、幾らでも飲めそうです。ええっと、何て言ったら良いんだろうこの感じ。例えば、宇宙の星達をぴょんぴょん跳ねて、このボトルから、じゃんじゃじゃーん、あと、ええっと、ええっと」

「有紗、もう酒は止めとこう? 悪い事は言わないから。じゃないと、俺がまた……」

「うーん。ま、陵市。今日も頑張れな」