「陵市くん、どこが太ってるんだよ? 有紗ちゃん、いっぱい食べちゃいな。陵市くんのも全部。陵市くんにはアーモンドだけ残しておけばいいから」

 援軍到着。わたしは、「そうだよ、陵市にはアーモンドで十分」と田口くんに同調しつつ、アーモンドをふたつみっつ取って陵市の手に大事そうに手渡す。

「百五十七センチに、四十六キロ、全然太ってない……はず」

「ちなみに、スリーサイズは?」

「えっと、上からはちじゅうろ」

「ばか、冗談だ、これだから」

 口を塞がれる。陵市が慌てふためいているので、どうしたのかな? わたしはジントニックを飲もうとしたのだけれど、それは空だった。
 いつの間に飲んだのだろう? わたしは、何だか笑っている田中くんに「えっと、ギムレットひ「には早過ぎるよ」……ぶう。じゃあ、カシスオレンジ!」と注文をし、「大丈夫? 有紗?」と訊く陵市に、「ん? なんの事?」と逆に問いながらも、得体の知れない動悸が胸の中で踊り出し、何だか楽しくなってきたのだった。

 どきどき。胸の音。
 もしかしたら、こびとが服の中で暴れているのかもしれない。イメージは、やっぱり白雪姫に出てくるお髭の生えた目のくりんくりんな七人なのだけれど、皆、何故か三センチくらいで、ちょろちょろと中を暴れまわり、例えば、赤の帽子は身体にひしっと抱きついていたり、緑の帽子は高熱の息を吹きかけたりして、わたしは厚ぼったいカーディガンをおもむろに脱いだ。そう、何のことは無くて、ただ単に暑くなっただけ。あっという間にこびとは消える。

「ああ、確かに暑いよね。俺も脱ごっと」

 陵市もガウンを脱いで、「はーい、カシオレです。あっ、預かるよ」と言うナイスタイミングな田口くんにわたし達は上着を渡し、「よし、飲むぞ~!」と意気込んだ瞬間に「あ! 有紗ちゃん、また酔っぱらったんだね」マスターが厨房から出てきて言った。

「まあ店が明るくなって良いけど。はい、おまちどおさま、オリジナルピザ。有紗ちゃん、ゆっくり飲みなよ? 陵市、飲んでないで、ちゃんと……」最後だけ、陵市の耳にこそこそ。

「はい、大丈夫です」