私には、その光景が激しすぎた。
今まで浮かれてた足も、いっぺんに重たく感じた。
すぐにその場から逃げだしたい。
私は、今来た道を引き返しエレベーターに乗り込んだ。
「社長、居なかった?」
警備のおじさんが、裏口にある『警備室』の前を素通りする私に声をかけた。
今にも泣き出しそうな私の顔に、作り笑いをした。
「友達が『今から遊ぼ!!』って電話。だから~大水さん、イヤ、社長さんにコレ渡してください!」
私は、出来るだけ明るく声を作って、持っていたケースをおじさんに託けた。
私は、何も見てない!
何も見てないんだ!!
何度も、そう自分に言い聞かせながら建物を出た。
でも、心の中でそう言うたびに、薄暗い廊下から見えた光景が浮かんだ。
大水さんと女性のキスシーン・・・。