結局慎次は保健室から帰ってきたあとすぐに早退してきた。顔のほとんどを包帯で巻いた人間なんて見たいやつはいないだろうし。


 それに包帯の無駄遣い(むだづか)を保険医にばれても面倒だったからだ。
これは優貴の仕業(しわざ)だが保険医は聞く耳を持たないと思う。もっとも最初から聞く耳を持ってないし、証拠(しょうこ)の包帯がすぐ脇のごみ箱にある。


 お昼前では誰も新城家にはいないため慎次は合鍵(あいかぎ)を使って玄関を開けようとした。


「あっ。ちょうど良かった!すいません。ハンコお願いします」


 感じの良い青年の宅配員が軽く会釈をする。右の掌(てのひら)には誰か宛(あ)ての小包だ。おそらく麻耶か玲菜宛てだろう。


 慎次はバッグから自分のハンコを取り出した。新城の文字が入ったものと、おそらく使わないだろう新沼のハンコ。


 慎次は新城のハンコを使った。宅配員はそれを見たあと慎次に小包を手渡し次の配達先に向かった。なんとその小包は慎次宛てだった。


「サイエンスコーポレーション?」


 誰もいない玄関(げんかん)の前で一人声をあげてしまった。そんな会社名聞いたことも無い。


 気になった慎次はその場で小包(こづつみ)の封を開けた。そこには黒く塗(ぬ)られたダーツの矢が一本。光で反射する刃先には透明のケースが付いている。慎次は首を傾げた。当然ながらそんなもの頼んだ覚えもない。慎次がダーツを趣味(しゅみ)にしているのを何で知っているのか逆に不思議(ふしぎ)で鳥肌が立った。


 ただ吸い込まれそうなフォルムが特徴的だった。ついつい見惚(みほ)れてしまうほどの美貌であった。物に対して美貌という言葉が合っているかどうか分からないが、美貌(びぼう)という言葉が一番しっくりくる。


 小包の中には手紙が入っているのに気づいた。白い便箋に書かれてあるが、今は手が塞(ふさ)がっているので一旦自分の部屋に荷物を置いてから読むことにした。