本来、保険医が座る少し立派(りっぱ)な椅子に優貴が座る。慣れた手つきで慎次の右腕に包帯を巻き続ける。慎次は真っ白な包帯(ほうたい)をじっと見ていた。患部(かんぶ)からは赤い染みが浮かんでくる。


「なあ……。何で患部にガーゼを巻かない?」


「ああ……。忘れた」


「忘れたって、お前……」


 慎次は溜め息をついた。優貴は急いで包帯の上からガーゼを貼る。


「なあ……。これはこれで意味が無いような気がするんだ」


「まあ。気にすんな、傷(きず)はそんなに深くないから。死にはしないぞ」


「そういうことを言っているんじゃないって……」


 慎次は再び溜め息をついた。優貴はかなりガサツだ。中学校の技術の授業ではいつもそのガサツさで先生に怒られていた。本人はそんなこと気にすることはなかった。


「よし!こんなもんか!」


 優貴がガッツポーズをして喜びを前面(ぜんめん)に出す。慎次は無口だった。口と鼻、そして目以外の肌色(はだいろ)の部分が全て白くなった。


「なあ……。僕を重症(じゅうしょう)患者(かんじゃ)にしたいのか?明らかにさっきの怪我(けが)より酷(ひど)いことになってるぞ」


「そうか?俺はそこまで気にしてないぞ。結構いけてるぞ」


「怪我人にファッションを求めるか?そもそも目と鼻と口以外全部真っ白にしやがって……」


 慎次は悪態をつきながらゆっくりと真っ白な包帯を剥(は)がしていく。徐々(じょじょ)に肌が表れてくる。


「オッケーか?」


「お前にはもう頼まない。絶対に……」


 慎次は心の中で叫んだ。