慎次が次に教室に来たのはそれから一時間後。授業中に突然傷だらけの生徒が来れば、生徒はもちろん先生だって顔を引きつらせる。


「慎次……どうした?いや聞くまでもないか……。すぐに保健室に行きなさい」


 慎次は先生の提案を無視し席に座る。そして机から授業の用意を始める。それを見て溜(た)め息をつく先生。


「慎次。この際だから言っておく。お前が良くても周りがいいと思うか?そんな傷だらけ、血だらけの顔を見たいやつがいると思うか?」


 先生の話に堪えたのか、慎次は顔を下に向ける。


「分かっているなら、優貴。お前が保健室まで行ってやってくれ。お前となら慎次も行く気になるだろう」


 優貴と呼ばれた生徒があまりいい顔をしない慎次の手を引っ張って教室から連れ出す。
今度は体育館の裏ではなく保健室だ。石川たちが遠慮なく慎次の顔や体を殴ったり蹴(け)ったりするので制服が泥だらけになっている。慎次はブレザーを脱いでついた泥を払う。


「まったく……どうしてお前は僕なんかと友達でいようとするんだ?」


「別に。お前といる方がなんとなく面白い。周りからはお前と付き合うのはやめろって言うけどな。でも俺がいないとお前は本当にどこかに飛んでいきそうだからな。麻耶は麻耶でああだから、俺くらいはしっかりお前を見届けないと。」



 昔から優貴はそうだった。何かにつけて慎次と一緒にいる。慎次は不満そうだったがそこまで悪くは思ってはいなかった。友達の温かさ。なんとなくわかる気がした。
優貴はそれを教えたかったのだろうか。



 保健室には誰もいない。ベッドで寝ている生徒がいないから、職員室(しょくいんしつ)でお茶でも飲んでいるのだろうか。