「……」


 慎次は無言を貫き(つらぬ)、本のページをめくる。それを見ていた石川は舌打ちをして慎次から本を取り上げ目の前で破いた。他の三人から笑い声が教室に響く。


「いっつもとろい奴だな!ちょっと来い!」


 そう言って笑っていた石川以外の三人が無理やり慎次を教室から連れていく。行き先はいつもの体育館裏。慎次は四人に暴行を加えられる。麻耶は慎次が連れて行かれるのを心配そうに見ていただけであった。


 いくら同居人だからといって麻耶はクールであった。所詮(しょせん)は他人。血の繋がってない彼が故意ではないにしろ、トラブルに遭った場合は麻耶は特に動くことはしない。それは慎次が望んでいたことだから。おそらく麻耶に迷惑をかけないためでもある。慎次と違い麻耶は将来有望(ゆうぼう)。そして誰もが認める美貌(びぼう)に傷をつけさせないためでもある。


「ねえ……いいの?慎次君連れていかれたけど……」


 麻耶のクラスメイトが話しかけてきた。


「ええ。大丈夫よ。私が行くと彼が怒るの」


「わざわざ助けに来てもらってそんな態度取るなんて……彼のこと追い出したら?」


「家に連れてきたのを決めたのは私じゃなくお母さんなの。だからこればっかりは……」


 麻耶は語尾を濁す(にごす)。もちろんこれは芝居だが、クラスメイトはそれには気づく様子がなく、慎次の愚痴(ぐち)を言い合っている。麻耶はそれを目を細めて見ていた。


 本当はこのままじゃ駄目だと気付きながらも麻耶はあと一歩が踏み込めなかった。