慎次にとって学校は試練の場でもあった。いかに人と交流を持たずに一日一日を過ごすことが出来るか。慎次は本を読んで一日を過ごすのであった。彼には友達という概念(がいねん)が極端に薄い。一人を好み、他人との交流を避ける。いつも慎次が行っていることだ。
 

 学校の制服は男子は灰色のブレザーに薄い灰色のYシャツ。灰色のマドラス模様のスラックス。ネクタイは付いていない。女子は男子と上は同じでスカートも灰色のマドラス模様である。     


 デザインが良く、制服がいいからこの学校に入ったという生徒もいるほどだ。慎次と麻耶はこの学校の一年三組。その真ん中の席で一人、休み時間にもかかわらず読書をしている。慎次であった。彼はトイレと移動教室の時以外自分の席を立つことはしない。特に真ん中であるため必要以上に慎次が目立って見える。
そこに四人の男子生徒が麻耶と優貴以外滅多(めった)に話しかけない読書中の慎次に話しかける。


「おい、新沼。今日も楽しそうだな」


 新沼は慎次の苗字(みょうじ)。本人は名字で呼ばれることを嫌う。忌々(いまいま)しい家族の苗字で、慎次もその一員ということが嫌だからである。


 慎次がちらっと見た。すぐに視線を本に戻す。話しかけたのは、いつも慎次をいじめるグループ。決まってブレザーやシャツのボタンを開けて挑発をしている。話しかけたのはその四人のリーダーである石川。浅黒い肌に肩まで伸ばした茶髪。耳にはピアス。絵に書いたような問題児である。彼らの登場で教室の空気が一気に凍りついた。教室にいる麻耶も他人事ではない。


「新沼。ちょっと金が足りないから貸してくれよ」


 いつも話を切り出すときに使うセリフ。ちなみに貸しても返ってきたことがないのは言うまでもない。