「ありがとうございます」


「いつものことだけど、もし今以上に苦しい時はすぐに連絡ちょうだい。あなたは私たち家族にも隠したがるからね。」


「す、すいません……」


 慎次が顔を下げると、玲菜はふふふ、と笑い、


「冗談よ。あなたはあなたなりに頑張ってるわ。現実から逃げずに学校に行ってるのが何よりの証拠。でも、もうちょっとガツンと行かなきゃ。そうしないとどんどんエスカレートしていくわよ?」


 学校でのいじめのことだ。内気な慎次は学校でいじめを受けていてすでに麻耶を経由して玲菜の耳に入っている。しかし、彼女は目くじらを立てずに優しい笑みを浮かべていただけだ。いつも笑顔で怒った顔を慎次は十年でほとんど見ていない。


 今ニュースでは何か気に入らないとすぐクレームをつける親たちに彼女の生き様を見習って欲しいと思ったことがある。もっとも慎次がしっかりとした対応をしていればいじめなんて問題にすらならなかったのだが。


 その晩、慎次は玲菜からもらった薬を服用してぐっすりと眠れた。後ろから追いかけてくる悪夢を振り切って心地よい寝息を立てている。