パソコンのディスプレイがメールの受信を完了したことを伝える表示が浮かぶ。アドレスには慎次が知らないのか、英語の小文字が羅列(られつ)している。タイトルには、


『あなたの不安解消!』と書かれてあったが慎次はそれに気づくことはなかった。


「例の薬ね。今持ってくるからちょっと待っててね。確かあれは……」


 玲菜は予想通り居間でテレビを見ながら笑っていた。玲菜は麻耶の母親でありながら慎次をこの新城家に連れてきた本人だ。


 十年前と変わらない美しさ、髪は肩まで届かないブラウン色で毛先を巻いてゴージャス感を出している。大きい瞳は親譲りで、茶色い瞳。赤いセルフレームメガネはよくテレビドラマで出てくる先生のイメージそっくりだ。しかしそんな彼女も寄る年波(としなみ)には勝てず、服装は上下ジャージというラフな格好だ。


 彼女は精神科医(せいしんかい)で慎次を引き取ったのは慎次のことを調査したいということだと麻耶から聞いたことがある。玲菜の腕は確かで精神科の世界ではちょっとした有名人らしい。彼女曰く(いわく)『趣味の世界で有名になるほど楽しいことはない』らしい。果たして本気でやればどこまで上り詰められるのやら。


「お待たせ。いつものお薬。必ず一回に一錠。それ以上服用すると危険だからね」


 玲菜がくぎを刺して渡したものは睡眠(すいみん)導入(どうにゅう)薬(やく)。記憶がフラッシュバックしてしまうと記憶が頭から離れず慢性的(まんせいてき)な不眠に落ちることが多い。そこでこの薬を服用すれば強制的にだが体を休ませることになり、ストレスの増加を抑える働きがある。