次の日の朝。学校を休んで慎次はサイエンスコーポレーションに向かった。


 電車を使って三十分と少し。気がつけば街を抜けた郊外(こうがい)にその建物があった。


 白い外壁に囲まれ、慎次のいる正面玄関は門扉(もんぴ)でしっかり閉ざされていて中の様子を見ることが出来ない。


 慎次は折角(せっかく)来たからどうしても入りたいのでどこか入れそうな場所を探したが、


「見つからない……それに広い……」


 外周を一周するだけで小一時間を要した。普段運動しない慎次だから遅いのか、それともここが広すぎるのか。


 門扉の隣で少し休んでいると、門がゆっくりと開く音がした。


 慎次はすぐに立ち上がって好機(こうき)とばかりに中を覗こうとした。


「あれ?」


 慎次は目をこすってもう一度門の奥を見るが、そこには何も建っていない。そこには緑の芝がただ広がっていた。それ以外のものは何も見えない。


 ――おい。本当にここなんだろうな?


 もう一人が少し脅し気味に話してくる。慎次は健吾からもらった記事に書いてある『サイエンスカンパニー』の住所に目をやる。次に近くにあった地図を見ると、やはりここだ。


「ここのはずだけど、さっき外を回ってて、それ以外にそれらしい建物あった?」


 ――いや、無かったはずだ。


 慎次が門の前で悩んでいると、老人に声をかけられた。


「若いの。人の往来(おうらい)で何を突っ立っておる?」


 慎次は驚いてすぐに横に避けた。


 老人は紫(むらさき)の着物を着て、下駄(げた)を履(は)いたまさに昔の日本人のいでたちだった。背こそは慎次の方が高いが、背筋(せすじ)もぴんと伸ばして歩く姿は貫録(かんろく)すらあり、慎次を見下さんとしている。