でもこの矢を捨てればもう一人の人格も消えてしまうことになるかもしれない。自分のことを分からずに消えていっては彼にとって無念(むねん)としか言えないだろう。


「そんなこと……出来ないよ。だってそんなことをしたらもう一人の人格が消えちゃうんだよ!?そんなこと僕には出来ない……」


「慎次。あなたの言っていることは分かるわ。でも、あなたも知ってるでしょう?もう一人の『慎次』がやったことを」


 玲菜のもう一人の慎次と言った瞬間に慎次の表情が変わった。


「俺は慎次じゃねえ!あいつは慎次だが、俺は慎次じゃねえ」


 いきなり慎次の口調が変わったことに麻耶たちは驚きをあらわにした。麻耶が確認するように話す。


「じゃあ。今朝の四人の骨を折ったのもあなたなのね?」


「ああ。俺がやった。あの頃はまだ体の具合が分からなかったからな。ちょうどいい相手がいたから少しじゃれただけだ」


「じゃれてたですって!?どうなったか分かってるの?四人全員が両手(りょうて)足(あし)骨折!全治(ぜんち)三カ月の大怪我(おおけが)よ!これがじゃれてるなんかで済(す)むと思うの!?」


「……それは悪かったよ。」


 もう一人の人格が麻耶たちに頭を下げた。玲菜がその間に入って、


「まあ。これで慎次の問題は良いけど……あなたはどうするの?このままあなたの正体が分からないままではあなたも慎次も困るわよ?」


「その件は、どうにかなると思う」


「どういうこと?」


「この記事を見てくれれば分かる」


 そう言って二人に健吾からもらった記事を見せる。二人はその記事を眺めて、


「住所を見る限りでは結構の近場ね。まさか乗り込む気なの?」


 もう一人の人格が頷いた。