そう言われて無理矢理(むりやり)慎次に握らせる。それは健吾の記事の一ページでタイトルには大きく、『サイエンスコーポレーションの真実!』と書かれてあったが、慎次はそれに目もくれない。


「おかげで昔みたいに金にも苦労しない生活さ。毎日が最高だ」


 そこまで話すと後ろを向いている慎次を前に向かせる。


「戻ってこいよ。昔みたくお前も新沼慎次にさ。今から飯食いに行こうぜ。とびっきりいいものを食わせてやる」


 慎次の答えはすぐに出た。今も震えるような声で、


「お、お前なんかと生活するもんか……。僕の気持ちもしらないくせに……」


 それを聞いた健吾は掴んでいた腕を放した。しかしその腕は震えている。


「どうしても戻ってこないなら、力づくで戻らせる!新城家から金を巻き取るために!」


 そう言って慎次目掛けて右の拳(こぶし)を振り下ろす。慎次はとっさに目をつぶった。


 ――よく言った。後は俺に任せとけ。


 健吾は目を疑(うたが)った。さっきまで怯えていた慎次が目をつぶりながら右ストレートを受け止めている。


 慎次は健吾の右腕を掴(つか)み胸に入り、そこから背負(せお)い投げをする。あっという間の出来事で健吾は受け身もままならずアスファルトに背中を打ち付けた。


 健吾は痛みよりも慎次がここまで豹変(ひょうへん)したことに驚きを隠せなかった。


「お前どうして……。もしかして聖(ひじり)の人間か?」


「聖?どういうことだ?」


 一瞬慎次の眉が釣り上った。健吾が続けて、


「ここまで人格が変わるのは聖の力だ!こうしちゃいられねえ!美佳!すまねえが俺は出版社(しゅっぱんしゃ)に行く!飯は二人で食っててくれ!」


 健吾は来た道を走って行った。残された美佳はどうしたらいいか分からずおろおろしている。


 そんな中一人の子供が慎次に寄ってきた。


「おにーちゃん。ぱぱをいじめちゃだめ!」