中学に入っても慎次は勉強こそは出来たが、学校も休みがちでいつも麻耶に迷惑をかけていた。勉強ができるので麻耶と同じ高校に入学したが、内気な性格で他人とは距離を取る、やはり高校でも勉強が出来たのでそれを良しとしないグループに目をつけられいじめを受けている。
高校に入学後さっきのように昔の記憶が蘇(よみがえ)ることが多くなった。


「まあ……慎次が大丈夫なら良いけど。もしひどいようならお母さんからお薬もらってきてね」


 さっきまでの不安げな表情から一変(いっぺん)して麻耶は笑顔で慎次に話しかけた。西洋人形な顔立ちに大きく黒い瞳。長い髪が彼女の魅力(みりょく)を一層(いっそう)引き立てる。彼女は小学校から人気者で高校でも告白してくる男子生徒は後を絶たない。そんな彼女とひとつ屋根の下で暮らしている慎次はやはり男子生徒の目の敵(かたき)にされている。唯一していないのは中学から二人の親友の木谷(きたに)優貴(ゆうき)だけだろう。彼はいつも慎次のことを親友と思ってくれる。自分なんかと仲良くしているから彼までよく思われていない。それでも彼は知ってか知らずか、慎次とつるむのをやめようとしない。それが優貴の良いところでもあり悪いところでもある。


 慎次は麻耶の母親である玲菜のところで薬を貰ってくることにした。麻耶にはああ言ったが正直今日のはかなり鮮明(せんめい)なもので頬(ほお)を殴られた痛覚(つうかく)まで感じたほどだった。殴られても無い右の頬をゆっくりと触って何事もないとそのまま一階の居間でテレビを見ているであろう玲菜のもとに向かって行った。