玲菜は急遽(きゅうきょ)仕事を抜け出してきたのですぐ病院に向かった。慎次は一人で新城家に戻ることになった。


 新城家から高校まで歩いて三十分。慎次は誰も歩いていない住宅街(じゅうたくがい)を歩いていた。やはり今日ここを歩いた記憶がない。


 自分にはもう一人の人格がいる。自分とはまったく違う人格がいると玲菜は言っていた。自分にはその記憶がない。だから分からない。元々自分には昔の記憶が原因で二重人格の兆候(ちょうこう)が見えるようになったという。


 普段(ふだん)温厚(おんこう)な玲菜や麻耶が怒る時も慎次はいつも怯えていた。頭を抱え(かか)うずくまり、ごめんなさい。と。


 それが現実から逃避(とうひ)していることは十分に分かっている。しかし、


――それがお前の出している答えなのか?
またあいつだ。少しだけでもいいから自分の心の整理(せいり)をさせて欲しいと言い聞かせる。


 ――お前のやっていることは逃げているだけだ。それで何でも解決(かいけつ)できると思っている。違うか?


 慎次は何も言えなくなった。それは自分でも十分に分かっていることだ。しかし、解決方法は何か?どうしたら自分が解放できるのか、それが分からなかった。