一つ息をついて玲菜が話し出す。


「でも、小動物(しょうどうぶつ)を傷つけることがあってもそれこそ人を倒して骨を折るまでの外化行動は例を見ないわ。これでは……」


 そこまで言うと玲菜はテーブルの上に散らばったファイルを整(ととの)える。


「彼の中にもう一つの完全なアイデンティティーが存在しているみたい」


「それは変なことなのですか?」


「ええ。十分に。二重人格はもう一人の架空(かくう)の人格が自分を守るために補填(ほてん)されるものなの。そこには確かなアイデンティティーは存在しない筈。でも・・・」


「そのアイデンティティーがもう一つの人格にはある」


 山下が答え、玲菜が頷(うなず)く。玲菜の顔色からこのケースが異例(いれい)であることを証明(しょうめい)している。


「とりあえず、今は慎次を帰(かえ)してもらってよろしいでしょうか?少し興味深いことですので」


 山下は難しい顔をしている。これから石川たちの保護者(ほごしゃ)達(たち)が来ることになっている。出来ればこの事を保護者達に伝えてもらいたいのだが、石川の保護者は学年のPTA会長だ。この事を話せば色々と面倒(めんどう)なことである。しかし慎次の問題も石川の問題も前々から分かっているのでここは慎次を守るために、


「分かりました。慎次、今日は帰っていいぞ」


 山下が少し疲れたような顔をして慎次に告(つ)げる。慎次は頷いて教室からバッグを持ってくるため一人相談室を抜ける。