次の日。少しだけ慎次の雰囲気(ふんいき)が変わっていることに優貴が気づいた。慎次が席に着くなり本を出さない。いつもならそのまま本を出して自分の世界にのめり込むはずなのに。今日の慎次にはそれがない。優貴がすぐさま慎次に近寄(ちかよ)った。


「うっす。今日は珍しく本を読まないんだな。金がないのか?」


「そうなんだよ。本を読むスピードが金を上回ったんだ。だから今日はお休みさ」


 慎次が笑顔で話す。イントネーションなど細かい部分も優貴が気づかない筈(はず)がない。


「なあ・・・。お前、今日・・・」


 優貴が言いかけた時、教室のドアが乱暴(らんぼう)に開け放たれた。開けたのは教室で一番怖がられている石川の四人組だ。すぐに慎次を見つけ近寄ってくる。優貴が少し後ろに下がる。さすがの優貴も石川たちを怖がっている。


「よお。新沼。今日こそは金貸してくれよ。」


 慎次は石川を一瞥(いちべつ)してすぐに視線を元に戻す。そして、


「はははっ!お前ごときが慎次が恐れている男か!随分(ずいぶん)慎次も腑抜(ふぬ)けだな!」


 優貴は慎次が何を言っているのか分からなかった。ただ分かるのはここにいる慎次は昨日までの慎次ではないということだ。


 それを聞いた石川たちが怒るのも無理はない。石川は慎次を引っ張りだした。もちろん慎次に危害(きがい)を加えるため。しかし今日の石川たちが危害というところまでで留めてくれるかどうか。


 しかしそんな状況の中慎次がにやりと口元(くちもと)を緩めていた。麻耶はすぐに優貴の隣にきて、


「優(ゆう)。見た?今の慎次の顔」


 優とは麻耶と慎次が優貴を呼ぶ時の略称。中学の時から使っている。


「ああ。さっきから慎次の様子がおかしいんだ。いつもの慎次ではない」


「俺が様子を見に行こうか?石川たちが慎次を連れていくのは体育館裏だ。何かあったらすぐに連絡をする」


 麻耶が頷いて、優貴がすぐに慎次たちの後をつけた。


 次に麻耶に連絡があったのはそれから十五分後のことだった。