手紙には機械で書かれていた。


『新沼慎次様へ
 この度はわが社のプロジェクトへの参加ありがとうございます。サンプルをお送りしましたので、お使いになってみてください』


 とだけ書かれてあった。


 知らない会社に、知らないプロジェクト。慎次は段々怖くなった。手紙とダーツの入っていた箱をごみ箱へ投げ捨てた。しかしダーツの矢だけはどうしてか捨てることが出来ない。


 おそらく本能がこの美しさに惚(ほ)れているのだろう。この矢を無下(むげ)に扱うことを本能が許さない。


 もう一度矢を見る。光の屈折(くっせつ)で違う黒が見える。自分とは違う。様々な色が慎次を魅了(みりょう)する。


 そこから急に自分に話しかける声が聞こえる。男の声。この家には今、慎次以外に男はいないはず。慎次は周りを見渡す。やはり誰もいない。


 ――よお。俺の声が聞こえるのか?


「えっ?誰?どこにいるの?」


 ――どこって、俺はお前の目の前にいる。そこからずっと話しかけている
 目の前。あるのは本棚(ほんだな)だけ。慎次は本棚に近づく。


 ――どうしてそうなる?お前が持っているダーツの矢だよ


 慎次は驚いた顔で右手に持ったダーツの矢を見る。先程(さきほど)までとは違った黒を魅せる。


 ――そうだ。お前には力がある。俺の声を聞こえるほどの力をお前は持っている


「力?僕にはそんなもの持ってないよ」


 ――お前には隠された力を持っている。俺には分かる。だから俺に協力させて欲しい。


「協力って?何するの?」


 ――今は言えない。だがお前を殺す真似はしない。少しだけお前の体に入れさせてもらうだけだ


 慎次は何が何だか分からない。そうしているうちに自分の意識が体から追い出されていく。気がつけば自分の体を見下ろしている。目の前には自分の体。そこには自分の知らない顔をした慎次の姿があった。慎次は自分のことをしっかり見てこう告げた。


 ――これからは俺も生活させてもらう。少しだけこの身体(からだ)を貸してもらうぜ


 そこから慎次の意識が途絶(とだ)えた。