「ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。……」
 

 一人の少年が起動中のパソコンの前で頭を抱え床にうずくまっている。体は震え、顔からは大量の脂汗が床に溜まっている。部屋の外にいたら聞かれそうな声の大きさで少年はごめんなさいを繰り返す。


 十年前のあのことさえなければ。今も苦しまずに生きて行けたはずなのに……!あいつらのせいで!
 

 少年の声を聞いてか、慌ただしく部屋をノックする音が聞こえる。


「ちょっと慎次!大丈夫なの!?」


 ドアの奥から聞こえる少女の声に慎(しん)次(じ)と呼ばれた少年ははっとして顔を上げる。白い壁紙に囲まれた部屋。ここはもう昔の記憶があった家ではない。
慎次はゆっくり体を起こしゆっくりと歩いて部屋のドアを開けた。そこにはスラッと伸びた黒い髪を三つ編みにした少女が心配そうに立っていた。


「かなりうなされていたけど、大丈夫なの?」
少女は大きな黒い瞳を若干(じゃっかん)潤ませて慎次を見つめる。慎次は少し顔を赤らめて、


「う、うん。今のはそんなにきつくはなかったから。心配掛けてごめんね。麻耶(まや)」


麻耶と呼ばれた少女は慎次の言うことをあまり信用していない。なぜなら彼はこの家の、新城家(しんじょうけ)の者ではないからだ。彼は十年前、麻耶の母親である新城(しんじょう)玲(れい)菜(な)が慎次を連れてきたのだ。麻耶はずっと弟か妹が欲しいと言っていたのでその時こそは喜んでいたが、慎次があまりにも麻耶に対して恐怖心を抱いていたため遊ぶことがほとんど出来なかった。