「宵ちゃん!!!待って.....」

大輔は自転車から降りて走って来た。

「待っててくれてたんじゃないん!?」


どこかで期待していた。
本当は少し寂しかったのかもしれない。


大輔のやさしさが
あたしを楽にしてくれる。


「大輔のばかぁ‐」

もう どうすればいいのか解らなくて..

一人じゃ消えてしまいそうなくらい寂しかった。



大輔は泣き出したあたしを
初めて強引に力ずくで抱き締めた。


「ごめん...。」


大輔が片手で押して来ていた自転車は
ガシャーン
と音を立ててまだ水溜まりの残った地面に倒れた。


自転車のタイヤだけが
カラカラと宙で回っていた。


「あたし..辛いよぉ..ひろが好きだよ...うっ」

「泣かんといてや...」


借りてはいけない胸を
借りてしまう。

大輔のやさしさが
あたしを楽にしてくれる。

本当に最低。

あたしは大輔を好きじゃない。
ひろが大好き。


なのに今のあたしには
この胸を借りることを
自分の逃げ道にしている。








きっと大輔は
もっと辛いんだよね...


でも 今回だけは
許して欲しいと
あたしは大輔に甘えた。


「ごめん..大輔..。」

「おう...ってかクラブ終わったばっかりやから..汗臭くない?」

「大丈夫っ」

大輔の優しさに
無理に笑ってみせた。



「話あるって言ったやろ?」

「うん」

「俺..この間ひろに会った」

「え?」

また一気にあたしの胸が
掻き回される。

痛い...。


「それで..宵ちゃんとのこと全部聞いた。」

「うん」

「ひろ...俺に謝ってきた。ごめんって..。」

「...。」

「俺かなり惨めやったわ」

「...」


あたしはもう大輔の話にあいづちを返すのが精一杯だった。


「あいつ..自己嫌悪してたみたいや。」

「そっか」


ひろはずっと
あたしとの関係に
自己嫌悪していた。

やっぱり諦めると言って
大輔に話をしにいったみたいだった。