あたしたちは
知り合いか居ないことを祈りながら水族館に入った。

ひろは大きな黒目をキラキラさせながら水槽を見ていた。
人混みをあたしのために掻き分けて、あたしが押し潰されないように守ってくれた。


「宵?ちゃんと見えてる?」

「あっうん♪見えてるよぉ」

「ほんまに?こいつら可愛いよな‐」

「うん。可愛い~」

ひろはそのまま水槽の中を泳いでいるラッコから離れなかった。
貝を一生懸命割るラッコが可愛くて可愛くて
あたしたちはそこから離れなかった。


「なぁ~?帰りにラッコのぬいぐるみ買ってかえろか?」

「えっ?ラッコ‐?!欲しい!!」

「じゃあ帰りに店寄ろうな♪」

「うん♪」

あたしは嬉しくて口が緩みっぱなしだった。
今この瞬間が全部幸せ。

幸せ過ぎる。

自然につなぐ
あたしとひろの手。
笑顔のあたしたち。

幸せ。

あたしはこの幸せにどっぷりと浸っていた。

「ひ~ろ♪」

「ん?」

人混みの中であたしは背伸びしてひろの頬にキスをした。

「うわッ..びっくりしたぁ」

ひろは頬を手で触りながら
目をパチパチさせていた。

「..ごめん。ついつい」

「俺も宵にキスしたいな~」

「え?!いいよッ」

あたしはびっくりしてとっさに答えた。

ひろはゆっくりあたしの顔に近づく。それはすごく慎重だった。

「うわ~やっぱ無理!!ってゆうか人いっぱい居るやん!!」

恥ずかしがってひろは顔を離した。

「やっぱこうゆうのは恥ずかしいからな!?こんなとこでやっぱりしたくないわ..」

「うん。そうだねっ♪」

でもやっぱりキスして欲しかったな。
恥ずかしがりやのひろにはこんなとこじゃ無理だよね。
チャンスだったのに...


「ねぇ~ここ観覧車あるよ?!」

「俺高いとこめっちゃ苦手や」

「でも..乗りたいな~」

「よし!!わかった!!」


あたしたちは水族館の近くにある観覧車に乗ることにした。