爆撃の影響で飛んだ十字架が
斜めに建物の壁に寄り掛かる。
砕け散ったステンドグラスが飛んだ破片が
月明かりにきらきらと輝いていた。

「キール……!」

「早い者勝ち。これはルールだよね」

けけ、と笑ってキールは飛んで行った。

やめろ
それを喰らうな

もう奪わないで

たいせつな

大切な

「やめろ!!」

気づけば大きな声で叫んでいた。
すこし、瞳に涙がにじんで自分でも驚く。

どうして、


どうしてこんなに感情的になる必要があっただろう。
他人のための感情なんて、
とうに忘れたと思った。

「……キール。残念だったな。
今回は俺の勝ちだよ」

シャーリィを喰らおうとするキールの前に立ちはだかったのは、
白い翼の彼だった。

「リフ……」

ほっとしたような、
情けないような声を出す。

「キラ、お疲れ。
間に合った よな?」
「……ありがとう……」

キールは舌打ちをして
その場にすとん、と座り込んだ。
「まぁた負け、かぁ」

……大切な……?

「……どうして、俺は」

キラはぼんやりする頭に問いかける。
どうして大切な 
などと思うのか。
少女は今までとおなじ
ただの一つの魂
決して特別ではなく、
特別などという区切りはあってはならなかった。
それなのに、『大切』などと思ってしまった自分の頭に何度も何度も問いかける。
幾度問いかけようとも返ってこない答えに軽く頭を横に振った。

「キラ。はやく」

時がめぐってしまう。
時がめぐれば、
魂は自動的に『魔』の食卓へと送られる。

「あ、ああ」

キールは、はぁとため息をついてキラに催促する。

「あーあ、また負けちゃったか……
 ね、聞かせてよ。
僕キラの歌が好きなんだ」

ごろん、と腹ばいになって
キールは頬杖をついた。