俺、高原和樹はこの春に大学を卒業して、この街にやって来た。

仕事は、。


でも、元々は田舎小僧だったし大学も辺鄙な山奥だったから、都会に憧れて出てきた俺にとっては毎日が新鮮で、興奮と好奇心で満たされていた。


そして、1ヶ月ほどたった頃、慣れたつもりで少し違う道に入ったら迷ってこの店を見つけた。

表通りに出れば会社からすぐのこの場所も、細々と入り組んだ裏通りから回れば、田舎者の俺が迷うには十分だった。


昼間の『Blue Moon』は、見事に潰れた店のような佇まいで営業しているのが不思議なボロさだった。

でも俺は、その現代離れした秘密の隠れ家のような姿に一目で虜にされて、

もと来た道をどうにか戻ると会社に着くなり先輩の木下に興奮して話しまくった。


しかし、実際は隠れ家とは程遠い結構有名な名店らしく、会社からも近いのだと知ってガッカリしたのだった。