僕が両手でベースを作る。

 空気を揺らせ、音楽は時間の芸術だ。僕たちがこの空間を支配する。

 早紀が飛び込む。前奏は過ぎ、一小節だけ四オクターブのユニゾン。

 照明が一気に明るくなる。ショーが始まる。


 僕が選んだのは、数年前に流行った映画で使用されたビッグバンドジャズ曲の、ピアノ連弾版だ。決して難曲ではないけれど、弾き応えも聴き応えもあるアレンジになっている。

 ピアノは小さなオーケストラって言うけど、ビッグ・バンドだってカバーする。ブラスも、ベースも、ドラムさえ。ピアノは何だって出来るんだ。

 ほら、始まってしまえばこっちのもの。もう誰も僕らを止めることは出来ない。