洗濯と身支度を終える。酒井君は朝食の後片付けをしてくれている。
 今日は有休をとってある。どんな顔をしていれば分からなかったけど、圭太郎君と酒井君が先生のお見舞いに行くのだからわたしも、と思って何とか繰り合せての休日だ。これから、酒井君が運転する車でまず先生の家へ行き圭太郎君を、それからホテルでザビーナさんとニーナさんを乗せて、先生の病室に行く。
 ますますどんな顔をすれば良いのかと悩んでいる。

「酒井君」
 この、優しさと愛情の塊のような人に、わたしは何を、どう伝えたら良いのだろう。酒井君は濡れた手を拭い、車の鍵を手に取った。
「なに。もう出られる?」
「この前の、返事を」

 家族になろう、と言ってくれた。その返事を、しなければ。

 酒井君は鍵を握る手に力を入れた。わたしは真っ直ぐに酒井君の目を見る。少しぶれる。そのぶれを、酒井君は見逃さない。
「待って」
 酒井君は微笑みを浮かべた。
「僕のために、次に帰って来るときまで待って。良い返事でも違っても、どっちを聴いても心が揺れてしまうよ」
 そう言って、酒井君はわたしのバッグを持つ。

「今はまず、先生の顔を見に行こう」
 足取り軽やかに、靴を履いて外に出る。わたしはその背中を追う。涙が零れてしまうのを堪えている。