「行こう」

 合図があって、僕は早紀の背中を軽く叩く。早紀は今一度深呼吸をして、暗いままのステージへ歩み出した。それでも制服の白はほんのりと見えて、彼女の背中は小さいけれど、とても頼もしい。

 僕は光を追うように、早紀に続いてステージを行く。


 二つ並んだ椅子の、鍵盤に向かって右側に早紀が、左側に僕が座る。結局ピアノは一台にした。癪だが圭太郎の言う通りで、一台の方が断然揃う。椅子の位置と高さを調整すると、心を落ち着かせるように早紀は持っていたハンカチで鍵盤を拭いた。