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 体育館のステージ、下手側の袖。その暗がりの中で、早紀が手の平に人の字を書いては飲んでいる。しばらくそれを眺めていた。ふと早紀と目が合って、彼女の頬が真っ赤になるのがわかった。

「だって、学校の友達の前でピアノ弾くのなんて、中学の合唱伴奏以来だよ」

「僕は弾かせて貰えなかったよ、男子の声が小さいからって」

 かわいい。文化祭特有の、熱気というか雰囲気が、僕に彼女をそう見せている。その表情も、仕草も、早紀が女の子なんだと気付かせる。