「一台なら、たくさんの弦を鳴らすのが断然楽だろ?」

 それから、と圭太郎は僕のパートを弾き始める。

「プリモ、入れよ」

「僕はセコンドだ」

 圭太郎はわざとらしいため息を吐いて手を止めた。鼻につく。

「何だよ」

「……プリモをちゃんと聞け」

「聞いてるよ。聞かないと合わせられないじゃないか」

「お前のは一人で弾いてるのと同じだよ。セコンドばっかり聞こえて来て耳障りだ」

 耳障り。僕は自分のこめかみの血管がぴくりと動くのを感じた。