空港からすぐレンタカーに乗れるように手配したのはニーナだ。
「ナオには、疲れているところ悪いけど」
 ワゴン車に荷物を積み込み、僕が運転席に、ニーナは助手席に、話していたいから、とドゥメールは後部座席の前列に座り、最後列の隅で額を窓に付けて、圭太郎は瞼を閉じている。
「ずっと寝ていたから平気だよ」

 ナビの音声ガイドを付けていいのか、と圭太郎に問いかけると、呻きのようにくぐもった声で諾の答えがある。空港で人に酔った、と顔を真っ青にしている圭太郎を見て、ニーナは急遽交通手段を変えたのだ。
「弾けるようになったら、とことん稼いでもらうわ」
「そうだね」
 こういう軽口も気配りの一つだ。僕は車を出す。有料道路を通るルートです、案内を開始します。ナビがやけに明るい声を出す。

 ラジオを掛けても?
 ニーナは後部座席を振り返って尋ねた。
「ええ」とドゥメールは応えたが、圭太郎は無反応だ。ニーナが前を向いて、カーオーディオを操作した。騒がしいくらいのJ-popが流れ出し、ニーナはボリュームを落としてチャンネルを変えた。聴者からのメールを紹介する番組に落ち着く。時おり挟む音楽は、軽い耳触りの物だ。

「ラジオは良いわね」
 ドゥメールは安心したような声で呟いた。
「何か良い思い出でもあるんですか」
 ニーナが訊く。二人とも日本語だ。
「たくさんのことを伝えられるのに、それは全てではない。テレビがオーケストラなら、ラジオはピアノだわ」
「素敵な例えですね」