車が動き出す。
「俺は、圭太郎にも早紀ちゃんにも幸せになって欲しいよ」
 そんなの、加瀬さんから痛いほどに伝わっている。先生からも同じように、それ以上に。

「もう年も年だからさ、美鈴さんが子供を産めなくなったことは諦めがつくんだ。美鈴さんが体調を戻して、前向きに生きてくれることが一番」
「はい」
「美鈴さんにとって圭太郎と早紀ちゃんは子供以上の存在で、俺は美鈴さんの配偶者だからね、俺にとっても二人は子供以上の存在なんだよ。子供の幸せを願うのは、親の役割だろう?」
 答えづらくて、窓の外に目を遣る。この何年かで見慣れた町並みだ。
「あー、今のは俺の言い方が悪かったよ。とにかく、他所の子どもの幸せも大事だけど、自分の幸せに目を向けなさい。お節介なオジサンからの説教」
 加瀬さんは軽口を装う。それでも、その思いはずっと筋が通っている。