室内の螺旋階段を、ライスターが降りてきた。お手上げだよ、という仕草をしながら。
「何度経験しても困ってしまうよ。特効薬はないものかな、とね」
「圭太郎は」
「彼の部屋にいる。ピアノの前にじっと座っているよ」
 こうやって、とライスターは腕組みした。
「弾かないのよ、ヨシのことを聞いてから」
 ドゥメールの声には怒りすら含まれている。

 まさか、と思う。
 デビューの録音を目前にして、まさかと。

「それは」
 ニーナが、圭太郎の部屋と思われるドアを睨んだ。
「弾けないって言うの? スランプだって言うの?」

 ライスターが短く頷いた。