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「その紙袋には、何が入っているの?」

 ライスターが所有するマンション、つまり圭太郎の住まいに向かう車内で、ハンドルを握るニーナが聞く。土曜日のサッカーに参加することを条件に、圭太郎は例の「すごいピアノ」を使うことを検討すると言ったのだ。
「茶葉だよ、日本茶の」
「日本茶……Grüner Tee(緑茶)ね」
「圭太郎の好物。これは知らなかったかな」
 そうね、とニーナは笑う。
「ニーナは好き?」
「苦手ね。東京に行ったとき、お茶とコーヒーのどっちが良いか聞かれて、紅茶だと思ってお茶をお願いしたら緑茶だったの。びっくりしたわ。それ以来苦手。第一印象が悪いの」
 僕たちの会社グループは、研修として世界の傘下の会社へ若手社員の人員交換をする。二年前、そうしてニーナは日本の地を踏んでいる。
「日本は好きよ」
「ありがとう。またおいでよ、通訳はいらないだろうけど、案内くらいはするよ」
「そうね。でもその前に」

 ブレーキをそっと踏み、車は止まる。
「仕事をやり遂げないと。帰れないわよ」

 ニーナはハイヒールの踵を鳴らして車を降りた。