圭太郎はバイオリンを持ち直し、アルノー達の輪へ戻った。電話を切った僕は、携帯電話をポケットに仕舞う。
「恋人から? それとも、圭太郎の知り合い?」
 ニーナに問われ、即答する。
「恋人だ」
 と。

 圭太郎がやけに明るい旋律を奏でる。
 ニーナは僕から視線を外し、その明るい音楽に耳を傾ける。

「彼女に会いたい?」
 ニーナの口から、日本語が溢れる。
 僕の口からは、Jaという短いドイツ語が。

 会いたい。動揺しているだろう早紀の、細い肩を抱きしめたい。
 そして答えを聞かせて欲しい。