四対一で試合は終わった。臨時メンバーのニーナも一点貢献して、満足そうな表情を浮かべている。会社チームは、センターライン付近でフォルカーが蹴ったボールがそのままゴールしてしまった一点が唯一の得点となった。僕たちディフェンダーは中央付近まで上がっていてボールに対応出来ず、キーパーのアルノーは靴紐を結んでいた。全く、運の良い一点だ。

 天気が良いので、公園で昼食にしよう、と誰かが言った。芝生に大きめの敷物が広げられる。手際よく食べ物や飲み物も配られた。芝生に直接座っている人もあり、団欒の場になった。
「なかなか上手いな、また一緒にやろう」
 ゲオルクに声を掛けられる。「次はフォワードで」
「素敵な攻撃陣がいるじゃないですか。僕は、サッカーができただけで楽しかったです」

 ビアンカが真っ赤なハードケースの中からバイオリンを取り出した。ゲオルクを見て、にっこり笑う。ゲオルクは一つ頷いた。すると、ビアンカはバイオリンと弓を圭太郎に渡した。
「弾けるんですか」
 恐る恐るゲオルクに尋ねると、一笑された。
「圭太郎も音楽家の端くれだ。圭太郎のバイオリンは初めて聴くが、楽器の二つ三つ扱えるものだよ。少なくとも、足を使うサッカーよりはな」
 フリッツがカホンに腰かけた。木箱のような打楽器だ。アルノーはギターを構えて、フリッツと圭太郎に何か言う。困った顔で圭太郎はバイオリンを構えた。

 ジャーマンポップス、とニーナが教えてくれた。
 圭太郎は巧みに楽器を操り、歌うように(圭太郎自身には歌えない高音だ)、軽快に、旋律を奏でている。カホンとギターは伴奏に甘んじ、バイオリンを盛りたてる。