土曜日の朝、ニーナに郊外の公園へ誘われた。言われた時刻に、言われた格好、つまりジャージとスニーカーで言われた場所へ行くと、そこには既に人だかりが出来ていて、見ると、会社の人たちが集まってサッカーをするという。

「おはよう、フォルカー」
「やあ、ナオ」
 同じ部で働くフォルカーは、ブンデスリーガの贔屓チームの、えんじ色のレプリカユニフォームに身を包み、靴もサッカースパイクを履いていて本格的だ。
「ナオが来るなんて知らなかった、ポジションはどこだ?」
「僕も、まさかサッカーに呼ばれたなんて知らなかったよ。先に教えてほしかった」
 そうしたらもっと準備できたのに、と話を続けていると、ニーナがやってきた。髪を一つに束ね、Tシャツ、短パン、シューズもばっちりだ。
「ナオはこっちのチームよ。早く来て」

 ニーナに続いてフォルカーや社員のいる輪から外れると、別のチームが準備を進めていた。ニーナは嬉々としてその輪に入り、その代表者に僕を引き会わせる。
「Georg Basch、このチーム、ゲーエムエルフの代表兼監督兼コーチよ」
「それから、ときどき選手だ。よろしく、ナオタカ」
 差し出された厚い手を握る。ゲーエムエルフ、つまりGM11。
「こちらこそ、よろしく。どうぞ、ナオと呼んでください」
 ナオタカ、という僕の名前を、ドイツ語話者はひどく窮屈そうに発音する。
「GM11のGはゲオルクのGですか」
「半分正解だが……ニーナ、俺もまだまだだなあ」
 ゲオルクは人なつこい笑顔を浮かべる。
「ゲオルクは、私達のところからCDを出しているピアニストよ」
 ニーナがくすりと笑って言う。