ふっ、とニーナは笑みを零した。
「日本的よ、その考え」
 意が汲めず、まじまじとニーナを見てしまう。
「誰から生まれたっていいのよ、今を生きて、ピアノを弾くのは吉岡圭太郎本人なんだから。両親には興味ないわ。それに、私たちが彼と契約するのは、吉岡圭太郎が素晴らしいピアニストだから、それだけでしょう?」
 はきはきと日本語を操る。僕は気圧されるように相槌を打つ。

「ナオ、あなたって吉岡圭太郎自身のことになると、途端に言葉が出なくなるのね。何か弱みでも握られているの?」
「そんな、」
 と言って、先が継げない。図星だと言っているようなものだ。
「そんな、ものかな」
 ニーナは釈然としないと顔で言う。日本人ね、と言われる前に、僕はCDの曲目リストを手に取って、圭太郎との打ち合わせの話を始めた。

「圭太郎は、ライスターの所有する部屋に住んでいるんだってね。打ち合わせ、そこで出来ないかな」
「なぜ? まあ、その方が圭太郎もマエストロも話し易いでしょうけど」
「すごいピアノがあるって、知り合いの調律師が教えてくれたんだ。そのピアノも使えないかと思うんだ」
 すごいピアノね。と、ニーナは何か考える。
「わかったわ」
 言うなり、電話を掛け始めるからニーナはすごい。