こちらへ来たばかりの圭太郎の演奏に添えられたものだということがわかったが、果たして酷評とも捉えられない。日本からやってきたばかりの黒髪の青年をこき下ろしているのではない。圭太郎への憐憫すら感じる評価だ。

「これは」
 ニーナは手元のタブレットを操作した。
「K.Assmann……国立室内楽団のチェリストだった人だわ。高齢で、演奏で表舞台に出ることはないけれど、たまに批評を寄せているわね。でもいつもは温かい言葉を並べるのよ」
 アスマンという氏に会ってみたいと思った。なぜこんなことを書いたのだろうか。

「とにかく、もう出ましょう。待たせては不利だわ」
 ニーナはオフィスのデスクから腰を上げる。僕も倣う。
「圭太郎とライスター、いっぺんに逢えるよう調整したのよ。先制攻撃ね。日本語でも英語でも、全部ドイツ語でライスターには伝えてあげるから、圭太郎との契約、何とか話を進めましょう。ナオ」
 溌剌としていう。
「ニーナ、君がパートナーで本当に頼もしいよ」
 思わず手を握った。ニーナは自信たっぷりに握り返して笑う。