案内されるがままに進む。入ってすぐ左手の、開け放れたドアの向こうに椅子が並んでいる。小さなコンサートでも出来そうな広間がある。

 その横を突っ切り、階段を登る。二階に幾つか部屋が並んでいて、早紀は一番奥を目指す。途中、小さい子が弾くようなたどたどしいピアノの音と、女の人の優しい声がする部屋の前を通った。


 開けたドアの先にもピアノがあった。無茶苦茶なランゲはドアを閉めると聞こえなくなり、僕は吸い込まれるようにピアノに向かう。

 ピアノに刻まれた金文字の銘は、ベーゼンドルファー。最近ハマっているアーティストが使っているのと同じメーカーだ。八十八鍵だからモデルは違うけど、それが二台、向かい合わせに置いてある。