バスを降りて少し歩く。そこには広い、古びた洋館があった。門の表札は蔦に絡まれて読めない。けれども人が生活している証に、門は滑らかに開いた。

 早紀に続いて、その庭に入る。住宅街の一角の筈だが、この屋敷だけ異世界にあるみたいだ。背の高い木が塀に沿って植えられ、庭中でたくさんの花が咲き誇っている。紫陽花、バラ、ペチュニア……名前を知らない花たち。

「ここ、梅野の家?」

 圧倒されながら聞く。

「先生の家だよ」

 何の先生だろう。考えていると、早紀はノックをするでもベルを鳴らすでもなく、重そうな玄関のドアを開けた。