家に帰るとピアノを弾きたくなるから、と言っていた。それで放課後の教室で勉強をするんだ、と。だから今日も早紀は教室にいた。僕は早紀に、勉強の邪魔をしたことを詫びて、コンクールの詳細の書かれたB6伴の紙を渡しながら言う。

「一緒に連弾やろうよ。体育館でやるから、二台ピアノでも出来るし」

 紙に早紀は目を落とす。教室には僕たち二人だけで、時折、誰かが廊下を通る足音がした。

 突拍子もないことを言ってしまった。早紀の様子を見て、ようやく気付く。

「どうかな」

「やってみたいけど……」

 言葉尻を濁す。当然だろうな。そう思っていると、早紀は机の上を片付け始めた。参考書やノートを鞄に入れる。仕舞い終えると肩にかけて、

「今から、ちょっと大丈夫?」
 と僕の顔を覗きこんだ。茶色い髪はふんわりとしたショートカット、白い肌、大きな瞳に僕は一瞬怯んだが、僕はうなずき、彼女の後を追って教室を去る。