「ぃぎゃぁあぁぁぁ――!!」
乙女の悲鳴とは思えない悲鳴。それでも、腹から声が出ているわけではなかったので、そんなに大きくはない。
「お、落ち着いて!」
驚いているわたしを宥めようとしたのか、目の前の男はわたしの肩を掴む。
でもそれは逆効果。見知らぬ男に触られたわたしは、また声にならない悲鳴を出す。
その状態から落ち着いたのはそれから数分後のことだった。
「すまない。そんなに驚くとは思わなかったんだ」
「……突然、目が覚めて、目の前に知らない人がいたら誰だってああなります!」
まだ興奮が収まっていない。わたしはほとんど、毛布の中に隠れた状態で叫ぶ。なので、相手がどんな状態なのかは分からない。
「いやだって、管理者たちがいよいよ私の妃が来ると言っていたから、興奮してしまったんだ」
幸せそうに語っている。わたしはその中の“妃”という言葉に反応してしまった。
そういえば、さっきフロウが『あぁ、あとそれと、貴女に逢いたくてたまらない皇子が押し掛けてくるかもしれない』って言っていたっけ。
ということはこの人が皇子なんだ。こんな調子だけどどことなく気品が漂っているし、綺麗な顔をしている。
格好いいというよりも、綺麗って言葉の方が当てはまる。
綺麗な人と居るとどうしても自分に劣等感を感じてしまう。だけど、そんなことをお構いなしに話を進める。
「私はね、昔から秘玉の主の存在にいろんな思いを寄せていたんだ。私の名前は、リュイス=リセクト・シェルヴェン。きみの名前は?」
「……合歓。涼城合歓」
聞かれたことは返すのが礼儀。わたしは小さく答えていた。
その後も、殆んど彼がマシンガントークの如くずっと喋っていた。どうすればいいのかも分からなかったので、フロウの『その時は適当にあしらっていい』というのを実行した。
再び、深く毛布を被り、聞く耳を閉じて、本日二度目の眠りについた。
ちなみに、この作戦は意味をなさず、わたしが次に目覚めた夕食時になるまでずっと喋っていたようだった。
(何でこんなに元気があるんだろう)
この謎が解けるのは、ずっとずっと先のことである――。