今わたしは、目の前の不気味な笑顔に怯えている。それはもう、ぶるぶると。寒くないのに寒気がする。

「合歓、聞いているのかしら?」
「は、はい……」

 消えるような小さい声で答える。だって、目をあわせるのも怖い。そんな笑顔で、なぜか猫なで声のようなあまったるい声で言われると、自然とこうなるはず。

「声が小さい。顔は上げるように」

 今度は叫ぶように返事をする。もうこれ以上怒らせちゃいけない。そして、目の前にいるわたしよりもかなり年下に見える少女・フロウは言う。

「なぜわたくしがこのように怒っているか分かりますか?」
「いえ……」
「2分も遅刻しておきながら、詫びの言葉もない。さらには、もじもじとしたその態度。皇太子妃となるのですから、もっとしゃきっとしなさい! しゃきっと!!」

 再び返事をする。どうしてこうも、ここは鬼教官ばかりなんだろう……。まだ二日目なのに、何か悟る。

 広くもなく、狭くもない部屋。どこか落ち着ける雰囲気なのに、人一人でこうも変わるというのが不思議でならない。
 と、説教されながらも、頭の中ではこんなことをいろいろと考えている。

 ここまでくると、無理矢理受けさせられているお妃教育に嫌気がさす。早く、早く……帰りたいな。このアルビノのような姿もなれない。人間関係にもなれない。
 もともと、こういった“何かさせられている”という受身なことが苦手ということもある。自分の好きなことは打ち込めるが、ダメなことはとことんダメ。最終的には、殻に引きこもってしまうぐらい自分を信じれない時も在る。

 そうこう説教されている間に、5分は過ぎたような。時間を計るものがここにはないから分からない。
 2分遅刻、といったフロウは持っているのかな。