……なんで、わたしはここにいるんだろう。

 そんなことを考えていたら、また上から声が降ってきた。

「この後の予定は何かある?」

 この後、午後の予定ってことよね。確か、フロウとのお勉強のはず。
 朝のジルとの会話を思い出しながら話す。

「確か、フロウとのお勉強。でも一体何するんだろう」
「フロウ――管理者は妃となる者にすべてを導く存在。秘玉のことから……」
「ま、待って。よく分からないけど、まあ何か教えてくれるってことね」

 すべてを導く存在、それがフロウ。その彼女が教えることとは? 確かに気になるけど、そんなことよりも、なぜフロウの話をするとそんなに声のトーンが落ちたの?
 ちらりと、顔を上げてみると、今までに見たことのない辛く悲しい顔をしているリュイスがいた。

 そんな彼を見たくなくて、すぐにこの話を終わらせた。
 なぜ。なぜ、あなたはそんなにも悲しい顔をしているの。

 でもわたしには、それを聞く勇気がなかった。昨日会ったばかりの赤の他人(だとわたしは思っている)に、しつこく言われたくないだろう。
 わたし自身がそうだから。自分がされて嫌なことは、人にはしない。小さいときに、親に教えてもらったことの一つ。
 それなのに、なぜかわたしの心はもやもやとしていた。

「もう少しで、そのお勉強だから、もういいよ――ありがとう」

 ゆっくりと椅子から立ち、リュイスの方を向き、お礼をいう。今の、わたしはちゃんと笑えているかな?

「また後で」

 後で会う約束をして、わたしはそっと、静かに部屋を出た。
 長い廊下を歩きながら、前を見る。そして立ち止まり、じっとてのひらを見る。この手は確かにわたしのもの……のはず。

 なぜ、わたしは今こんなにも泣きたい気持ちなんだろう。こんな泣き虫な女じゃなかったはずなのに。
 この世界に来てから、わたしが“わたし”でなくなってきていることを薄々感じ始めてきた。そんなわたしを受け入れることができず、またわたしは悩む。

 すべて何かに、管理されているかのように。