かと思えば、今度はわたしの方に向かって歩いてきた。
「疲れているのなら肩でも揉もうか」
と言いながら、すでにわたしの肩を触っている。いやなぜに、肩なの? やっぱああいうことすると肩がこるものなの?
なんて考えているうちに、彼の両手はわたしの肩に触れている。それが肌から伝わり、温かい。ちょっと気持ちいいかも、と思ってしまった。
「合歓の髪は綺麗だね。私も金だけど、合歓の髪は柔らかい色をしている」
「それってどんな色よ」
肩に掛かっていた髪が、ふわっと胸の辺りに落ちる。目に入るのは、わたしでない色の髪。
それなのに、こんな色のどこが綺麗なんだろう。薄い金髪に赤目なんて、アルビノみたいで、変な感じなのに。
そりゃ、一日前までは普通の黒で慣れていないというのもあると思う。なら、ここで過ごす日々が増えたら、この色に慣れるものなのかな――?
優しく、それでも力強く揉まれる肩。意外と気持ちいい。身体の疲れが取れていく感じがする。
肩を揉むことはあっても、揉んでもらうのは初めてで、ちょっと変な感じもする。それでも、心のどこかで、やめないでと願っているわたしがいる。
「そんなに気持ちいい?」
声を掛けられたことに気付くのに時間が掛かった。多分、どっぷりと今の状態にはまっていたんだろう。
「うん気持ちいい。あなた、マッサージ師の方が向いているんじゃないの、皇子さまというよりも」
「それなら、合歓だけのマッサージ師になってあげる」
この恥ずかしい台詞に気付くのに、わたしは少々時間を有した。べ、別に、わたし専属のマッサージ師なんて要りません!!
多分、恥ずかしさのあまりに赤くなっている頬を隠すように、下を向く。
床も普段知っているものとは違う、じっと見ていてそう思った。