どのメイドさんもしっかりとしてすごいけど、この人は今までの人とはまた違うオーラを纏っている。
 ジルの噺でも聞いていたけど、できる女、それだ。この世界のキャリアウーマンみたいな人だ。
 はきはきとしっかりしゃべる彼女を見ると、此方までしっかりしないといけないという気になる。

「では、さっそくですが実技をしながら説明させていただきます。頭で覚えるよりも、身体に染みこませた方がいいですからね!」

 は? 何ですか、その発言は。アリサは軽く手を叩くと、部屋の扉がガラッと開いた。入ってきたのは数人のメイドさん。素早く、食器類など(食材付き)をセットすると、これまたすっと消えていった。
 早い。さりげなく現れて、さりげなく消えて行った。

 そしてあっという間に、わたしの目の前はランチで飾られた。
 しかし、先ほど食べたばかりでこのおいしそうな匂いも今はちょっときつい。わざわざこれだけのために食事を作るなんてどうなんでしょうか。

「一般的に公式的なお食事以外は特にマナーは気にすることはありません。最低限のものさえ守れば。ということでまず最初は、その最低限のマナーを身につけてもらいます」

 そっとテーブルに手を乗せると、見る見る内に彼女の表情と口調が変わってくる。
 いや、口調は変わっていないように見える。なら、喋り方? 喋り方がどことなく厳しさを増したように怖い。瞳に怪しい光が宿っている。

 その様子をわたしは目を丸くして見ていた。そうしたら、彼女は言う。

「ほら! 早く椅子にお座りなさいッ。もたもたしていたらいけないでしょう!!」


 人ってこんなにも変わるものなんだ。優しい人だと思っていたんだけど。少し怯えながら椅子にちょこんと座る。
 これから地獄のレッスンになることをわたしは薄々感づいていた。